
夏になると着たくなるのが、浴衣。
年々残暑が長引いている影響か、今年の夏も浴衣人気が続いている。
最近の流行として、「竺仙」に代表される古典的な柄や色が見直されてきているが、浴衣を美しく着るために最も大切なのは、なんといっても自分の体型にあっているかどうかだ。
既製品だと、だいたい仕立て上がりでフリーサイズ。
あったとしてもMかLといったサイズ展開がせいぜいだろう。
浴衣を含め、着物は“おはしょり“ができるので多少のサイズ調整ができる。
特に身丈(みたけ)は、自分の身長よりサイズが少し大きめでもカバーできるが腕の長さで変わってくる裄丈(ゆきたけ)はなかなかぴったりとはいかない。
背が低くても腕が長い人もいるし、逆もまたしかりだ。
私は、背が低く身幅が狭く腕が長いので、既製品だと全く合わない。
現代女性の平均身長サイズに合わせているためか、どれもが大きい。最近はMサイズが一番小さく、Sサイズを作っていないメーカーも多い。
その為、既製品を買って自分のサイズにサイズ直しをするという作業をしたら、結局一度縫ったものをほどいて、また新たに縫い直すことになり、結構な額になってしまった。
それだったら、反物から選んで初めから自分の体型にあった浴衣を誂えようと、今年は浴衣のお誂えに挑戦した。
そこで訪れたのが、銀座にある老舗の呉服屋さん「三松」。
一見敷居が高く、入りづらい店構えだが、勇気を出して店内に入ると非常に気さくで着物に造詣の深い店主が迎え入れてくれた。顧客には歌舞伎界や花柳界の方も多く、非常に質の良いものを取り揃えている店であるため、一見で浴衣を誂えてもらうことができるのか心配だったが、ご主人が色々と反物を見せてくださり、仕上がりの細かいところにも気を使ったアドバイスをしてくださったので、不安が一気に解消された。
専門店の良さ、大切さを改めて感じた。単にモノを買うだけでなく、お店の方の経験に裏付けられたお話を聞き、自分に合った見立てをしていただくことで、今まで気がつかなかった自分の良さを引き出してもらえるという経験をすることができた。
今回選んだ生地は、白地に「辨慶(弁慶)」と濃紺で描かれた非常にシンプルな浴衣地で、とある歌舞伎役者さんが、歌舞伎の演目で弁慶を演じるときにお作りになったものだそうで、粋なセンスを感じるデザインに一目惚れをしてしまい、即決した。
浴衣を着ていてなにがイヤかというと、同じ浴衣の柄の人と居合わせることだ。花火大会など人が多く集まる場所では、致し方ないものかもしれないが、誂えることによりそのリスクはぐっと下がる。
自分好みのレアな生地と出会い、身体にぴったりと合った浴衣を誂えるという経験は、心がときめき、想像以上にワクワクした。大人の贅沢、楽しみ方ってこういうものなのかもしれないな、と出来上がりを待つ時間も含めて実感した。
浴衣を誂えてみたい!という方のためにご参考までに大体の流れをまとめると、
1. まず反物から生地を選ぶ。この時に自分の仕立て上がりを想像して自分の顔や雰囲気とあっているかをチェック。お店の方のプロの意見も参考にじっくり選ぶと良い。
2.採寸。店にもよるが、好みの袖(そで)丈の長さや、襟の形(ばち襟か広襟か等)に合わせ調整してもらえるお店もある。今回のお店は、私の好みを細かく聞いて下さったので、袖(そで)の長さを少し長めで角に丸みを出し、襟をばち襟に仕上げるようにオーダー。
3.最終的な金額、仕上がり日の確認。浴衣の反物代金は、物にもよるがだいたい1万5千円~2万5千円位(超高級浴衣は除く)それにお仕立て代がかかる。お店ごとに違いがあり、ミシンか手縫いかどうかにもよるが、おおよそ仕立て代が1万円~1万5千円前後くらいだとすると、だいたい一般的に浴衣を誂えるのにかかる金額は、トータル3万円~4万円前後くらい。
4.受け取り、試着してサイズのチェック。(だいたい2週間~3週間前後。6月中旬~7月が一番オーダーが多く混むので、5月末~6月頭に誂えるのがお薦め)
もちろん、サイズなど細かいことを気にせず浴衣で夏気分を盛り上げたい!という方はお手軽な既製品の浴衣で、十分に楽しめる。
ただ、本当に美しく、自分に合った浴衣を着たいと思ったら、思い切って浴衣を誂えるところから始めるのも一つだと思う。
お値段はピンキリとはいえ、浴衣であればだいたい既製品の金額にプラス2万円位でできる。着物を誂えるとなると何十万の世界が通常だが、浴衣だったら誂えでも手が出せそうな範囲だ。
欲しいお洋服の何着分かを我慢して、浴衣の誂え体験に投資してみたら、美の新たな世界が広がるかもしれない。
成熟した大人の女性だからこそ活きる美しい着こなしを、ぜひ浴衣で表現してほしい。