化粧品の「防腐剤」は本当に悪者なのか?

フラスコ

ほとんどの化粧品に配合されている「防腐剤」。
一般的には「パラベンフリー」と謳っている化粧品でも、「パラベン」以外の防腐剤が配合されていることが多く、防腐剤が全く入っていないということではない。

中には、完全に防腐剤を入れずに化粧品をつくっているメーカーもあるが、消費期限が比較的短く、使い切りのものや冷蔵保存をしないといけないなど使う上での制約も多い。
消費者にとっては、コストや手間を考えると防腐剤にどこまで神経を使い、どのような付き合い方をしたらよいのか迷うところだ。

今回は、原料の専門家であり、東京農業大学の客員教授でもある島田邦男氏に「防腐剤」についてお話を伺い、化粧品にとっての「防腐剤」のありかたについて考えていきたい。


恩田 そもそも化粧品に防腐剤をいれる目的とはなんですか?

島田氏 化粧品の製造工程中の“一次汚染”のためではなく、消費者が使用していくなかで手に付着した雑菌が混入したり、空気中の微生物が入り込み製品が傷む“二次汚染”を防ぐためで、製品の品質を保つために配合しています。

恩田 そのために防腐剤を入れる必要があるのですね。

島田氏 防腐剤じゃなくてもいいんです。防腐効果のある植物エキスや、アルコール、pH調整、またはそれらの複合で処方し、出荷する時には各メーカーが決めた菌の数以下におさめています。

恩田 その規定に収めるために、各メーカーは処方を日々試行錯誤しているわけですね。

島田氏 とはいえ、日本は化粧品を出荷する際の菌の数についての国の規制がないんです。海外だと例えばアメリカでは、1g100個以下とか、500個以下とか細かくきまっているんです。日本は、厚労省からの通達で、目に使う商品(アイライナー、マスカラ、アイシャドー等)は1000個以下と決まっているのですが、それ以外は決まっていないので、ある意味ゆるいといえるかもしれません。

恩田 そのわりに、日本の化粧品メーカーは、かなり防腐剤についてきっちりと配合しているイメージなのですが、なぜなのでしょうか?

島田氏 それは、薬事法が絡んでくるのですが、病原性微生物に汚染された化粧品を販売すると、薬事法違反になってしまうからです。特に国としての製品ごとに菌の数の基準がなくても、消費者が商品を購入し、未使用の状態で蓋をあけて製品が腐っていたら製造した側の薬事法違反になるのです

恩田 そういう意味では、メーカーも自己防衛の意味も含めてきっちりと防腐効果を担保したいというのはありますね。ただ、OEMメーカーの製造工場はクライアントにオープンにしていたり、衛生面も含めて製造の基準が厳しいので、一時汚染の部分については比較的安全といえるかもれませんね。

島田氏 一次汚染を防ぎ、二次汚染をなるべく抑え化粧品が傷みにくくしても、使う人によっては肌に刺激がでてしまう可能性があるのが防腐剤の難しいところですね。

恩田 それは、防腐剤の種類によってなのか、配合濃度なのかというのは一概には言えないものなのでしょうか?

島田氏 そうですね。“ポジティブリスト”というのがあって、全ての化粧品に配合規制のある成分と、粘膜への使用や洗い流す製品に使用される成分とに分けて規制されています。化粧品に配合規制のある成分では、例えばパラベンを防腐剤として配合する場合でしたら「製品100g中に最大1g」と数値が示されています。

恩田 ではそもそも一般的に「パラベン」は、なぜ刺激があるというイメージになったのですか?

島田氏 少し前ですが、2004年にイギリスで「20例の乳がん患者の内、18例に多量のパラベンが検出された」という論文がセンセーショナルに取り上げられたことがあり、結果的には、EUの消費者製品化学委員会により化粧品の使用による乳がんリスクとは関係ないと結論づけられましたが、パラベン=怖いというイメージがついてしまい、とくにピンクリボンを支援しているような大手の外資系メーカーがパラベンではない防腐剤を使う流れになったというのはありますね。

恩田 パラベンが実際には関与していなくても、イメージダウンのリスクを考えて他の防腐剤を採用する流れになったということですね。日本でも、そのようなことはあったのですか?

島田氏 2005年に朝日新聞に、当時、京都府立医科大の吉川教授の研究で「化粧して外出するとシワやシミが増える?」という記事が出ましたが、結果として行われた実験が試験管中の培養細胞を対象にしたもので、人体の皮膚とは耐性が異なることや、その研究自体に出資している化粧品メーカーの都合の良い結果をだしている、とみられる向きもあり結局、パラベンによる皮膚への影響は立証されませんでした。

恩田 化粧品では悪者にされがちな「パラベン」ですが実は、防腐剤として利用されてきた歴史は長く、身の回りに溢れています。化粧品だけでなく保存するための食品添加物としても使われていますよね?

島田氏 はい。しょうゆ、酢、清涼飲料水、栄養ドリンクなど特に液体の防腐剤として配合されていますね。

恩田 パラベン=悪い、みたいなイメージが先行していますが、私たちが普段口にしているものにも入っているような防腐剤としての歴史が古い成分なんですね。

島田氏 パラベンとひとくくりにされていますが、パラベンには主に4つの種類(メチル・エチル・プロピル・ブチル)があり実はそれぞれに特徴があるのですが、表記の義務がないので消費者の方にはわかりにくいというのもパラベンについての正確な情報が伝わらない一つの要因になっていると思います。

恩田 化粧品業界は、何かを敵にして商品を売るような手法がよくとられますが、本来は配合バランスだったり、自分の肌に合うかどうかを冷静にみるというのが大事ですね。

島田氏 そういう意味では、防腐剤が少なくても品質を保てるような容器を、構造から設計開発しているようなメーカーもあるので、防腐剤の有無、種類だけでなく、使用による二次汚染をなるべく防ぐという部分では容器という視点でも商品を選ぶのもいいかと思います。

恩田 それは、空気に触れる可能性が低いエアレスや、取り出した中身が、逆戻りしないバックレスタイプの容器等ですよね。今年はトレンドとして容器から処方を守るような製品が複数出ています。「アベンヌ スキンバランスクリームEXSS」は独自の密閉容器を採用し防腐剤0%を実現、「レヴール フレッシュ-ルモイストシリーズ」のシャンプー・トリートメントは、真空容器を採用したことで配合できるオイル量を増加することを可能にし、注目を集めています。
商品の劣化を防ぎながら防腐剤が少なくてすむ容器を採用しているかどうかを商品選びの際にチェックするのも一つの手ですね。

島田氏 はい。私は品質を保持するためにある程度の防腐剤は必要だと思っていますが、なるべく量を減らすように種類や処方を調整していくのが研究者の責任において重要な仕事だと思っています。あとは、使う側の消費者も、肌が荒れたり、ヒリヒリしたりと症状が出たらすぐに使用を中止することが大切です。

恩田 確かに、自分の肌とどんな防腐剤が合わないかを知る為にも、肌の変化に敏感でいないとダメですね。今日は、身近でありながらイメージに左右されがちな“防腐剤”について色々と知ることができました。お時間を頂きありがとうございました。


島田 邦男
大分大学大学院工学研究科卒業
東京農業大学客員教授 工学博士
日油株式会社を2014年に退職。
・日本化粧品技術者会東京支部常議員
・日本油化学会関東支部副支部長
・日中化粧品国際交流協会専門家委員
・東京農業大学客員教授
日油筑波研究所でリン脂質ポリマーの評価、研究をグループリーダーとして行う。
日本油化学会エディター賞受賞。経済産業省 特許出願技術動向調査委員を歴任。著書も多数出筆している。
 島田先生お写真

 

恩田 雅世(おんだ まさよ)  コスメティックプランナー

投稿者プロフィール

コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。
フリーランスとして“ベルサイユのばらコスメ”など様々な企画・プロデュース業に従事。
化粧品を企画する中で「美しさとは何なのか」を追求した結果
「化粧品だけでは綺麗にならない」という考えに行きつく。

現在は、「女性が本当に美しくなるためには」をテーマに、あらゆる角度からの
情報収集のみならず、現場主義をモットーに自ら体験取材を行っている。

また、その経験を活かした商品提案、イベント企画、執筆活動も行っている。

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